空き家になった1933年築の木造2階建て元そば屋を改装してカフェ&レンタルスペース「古民家カフェ蓮月」に

空き家になった1933年築の木造2階建て元そば屋を改装してカフェ&レンタルスペース「古民家カフェ蓮月」にのイメージ

【著者】空き家グッド
「空き家の活用で社会的課題を解決するブログ」を運営。空き家の再活用事例、空き家に関する法制度の動向などについて情報収集・発信しています。東京都内で空き家の所有者へ再活用に向けた働きかけを実行中。

店主が高齢のため2014年に閉店し空き家に

東京都大田区池上にある「古民家カフェ蓮月」は、東急池上線「池上駅」より徒歩8分の場所にある2015年10月に誕生した人気のカフェ&レンタルスペースです。

この建物は1933(昭和8)年に建てられ、2014年までは「蓮月庵」というそば屋として池上本門寺の参拝客などから長年親しまれてきました。しかし、店主が高齢を理由に閉店してからは空き家となっていました。

1年ほど空き家でしたが、この歴史ある建物を活かし再生しようと地元の人たちが集まり保存プロジェクトが発足し、2015年2月に再活用してくれる人を募る説明会が実施されます。

その説明会の参加者で、ちょうど自身が経営していた古着屋を閉めた頃だったという輪島基史さんに保存プロジェクトのメンバーから店長就任の打診があります。

将来、バーを開きたいけれど飲食店の経験がないためどこかで修行しようと考えていた矢先だったこともあり輪島さんは店長を引き受けることにします。

池上本門寺の門前に建つ大型の木造2階建ては「古民家カフェ蓮月」に生まれ変わっています

保存プロジェクトのメンバーの意志を尊重し、元そば屋の名残を活かす改装

建物はこれまであまり大きな修繕がされてこなかったこともありボコボコの床、雨漏りする屋根、隙間の空いた壁など、相当老朽化が進んでいました。

ほこりだらけの部屋をとにかく掃除し、キッチンもトイレも総入れ替えするなどお店のリニューアルに向けて改装を進めていきました。

建物を保存し再活用するにあたってどのような方法が最適なのかを考えた輪島さんは保存プロジェクトのメンバーの意志を尊重することを大切にしました。元そば屋の店名もそのまま引き継ぎ、改装も以前の名残を活かしています。

畳を床に張り替えましたが、引き戸やテーブルなどは今でも利用されています。

▲無料wi-fiあり、メニューも豊富です。不定休のためお店のtwitterで休業日を事前確認されることをおすすめします

幅広い世代に愛される落ち着いたカフェ

8月の日曜日の午後に行ってみたときは程よくお客さんがいる状態でした。客層としては幅広い世代の方がいらっしゃり、地元の方はもとより古民家カフェ好き、喫茶店好きの方に愛されている印象を受けました。

とても落ち着ける空間で、小さい子どもが裸足で床を歩いていました(店内で靴を脱ぐ必要はありません)。どのメニューも美味しそうでした。2016年度「OTA!いちおしグルメ」に選ばれています。とくに「厚切り照り豚丼」はボリューム満点です。

新メニューがちょくちょくブログで発信されています。

▲懐かしい昭和の香りを残す店内。入口付近の壁にはそば屋時代のメニューが掲げられています

▲店内は落ち着いた雰囲気

学生限定の「蓮月自習室」、イベントも不定期開催

中・高・大学生を対象に「蓮月自習室」と銘打ってドリンク半額で店内で自習ができたり、イベントも不定期に開催されています。

蓮月はお洒落すぎず居心地のいい空間を目指しているそう。多くの人が集まって長居もできる、居心地の良い空間を作っていこうという工夫がされています。なお、自習室はお店の混雑状況次第で制限したりする場合もあります。

▲古民家カフェでの自習は集中できそうです。古民家怪談というイベントも興味深いです

映画「ふきげんな過去」のロケ地

蓮月は小泉今日子と二階堂ふみが主演で前田司郎が監督・脚本の映画「ふきげんな過去」(2016年6月25日公開)のロケ地としても使われました。ちょうど元そば屋からカフェへ改装するタイミングの2015年8月にロケ地として貸すことになりました。

映画では「元そば屋のエジプト風豆料理屋」という設定でセットが組まれ、店名は実際の元そば屋と同じ「蓮月庵」として登場しています。

大田区商店街PR動画コンテストで最優秀賞

都内最多143の商店街がある大田区では2017年に大田区商店街PR動画コンテストを実施しました。蓮月は応募総数124動画の中から見事、最優秀賞を受賞しています。動画は2人の女子高生が池上本門寺通りを軸に青春している内容です。1分間というコンパクトな動画です。

建物・空間・立地のポテンシャル、再活用に向けた地元の人たちの意志、リーダーとなる後継者

築80年以上の木造2階建て、長年続いてきた元そば屋の名残、池上本門寺の門前という立地。建物、空間、立地、それぞれにポテンシャルを感じさせる空き家の再活用に向かわせたのはこの場所に長年親しんできた地元の人たちでした。

当初は店長になろうとは考えていなかったという輪島さんを空き家の再活用のリーダーとして推薦したことは、簡単なようで実際はなかなか出来ないことだと思います。

というのも、平成30年度商店街実態調査報告書によると空き店舗が埋まらない理由の第2位が「所有者に貸す意思がない」(39.2%)であり、そもそも空き店舗を誰かに貸すという行為自体のハードルの高さが空き店舗、翻ってはシャッター商店街となってしまう大きな要因の一つとなっているからです。

そして、輪島さんがリーダーかつ後継者として空き家の再活用を引っ張ることにつながりました。輪島さんは地元の人たち、もとい保存プロジェクトのメンバーの意志を尊重し、これまで建物が培ってきたストーリーや記憶を要所で残しつつ、必要な掃除や修繕、改修を加え、現代のニーズに合ったカフェ&レンタルスペースとしてアップデートさせます。

こういったプロセスは空き家の再活用に取り組む際の考え方、方法のポイントとして大いに参考になると思います。

▲蓮月はinstagramもやっています

【著者】空き家グッド
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