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空き家になった築90年以上の診療所兼住宅や学習塾などとして使われてきた建物を再生してシェアオフィス「nokutica(ノクチカ)」に

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空き家になった築90年以上の診療所兼住宅や学習塾などとして使われてきた建物を再生してシェアオフィス「nokutica(ノクチカ)」にのイメージ

溝の口に誕生したシェアオフィスが盛況

神奈川県川崎市の東急田園都市線溝の口駅、南武線武蔵溝ノ口駅から徒歩3分の場所にある「nokutica(ノクチカ)」は、2017年12月に誕生したレンタルスペースやコワーキング、レンタルオフィス、カフェなどからなるシェアオフィスです。

リフォーム産業新聞の2019年6月の記事によるとコワーキングスペースは70人弱が利用しレンタルスペースも月140組利用するなど、地元で働くフリーランスや地域住民の活動や交流の場として賑わっています。目の前の道路は交通量が激しいですが駅近の好立地です。

▲この日は【コシガタリ53 【夜の部】「diy可能物件の作り方」 ~これからの時代のお部屋の選択肢~】という有料イベントに参加してきました

シェアオフィスのニーズと溝の口エリアの価値向上

こちらの建物は1915年頃開業の診療所として使われ始め、その後は学習塾や下宿などとして使われてきました。

築90年以上の歴史ある建物ですがここ数十年は荷物の多さなどから空き家として放置されていました。

2015年に所有者が既存の建物を残したまま再利用できないかと、溝の口駅近くの不動産会社である株式会社エヌアセットに相談したことから再生計画がスタートします。

建物面積が大きいことから当初は宿泊施設やシェアハウス、飲食店、保育園などへの再生案が出されました。

しかし、元々の用途が住居であり用途変更するとなると建築基準法や消防法などの規制をクリアしなければならないため難しいと判断されます。そこで考え出されたのがシェアオフィスとしての再生です。

溝の口には働いたり表現するためのスペースがほとんどなく、唯一在宅ワーカーが机を借りられる場所があるくらいでした。

その施設には多数利用者が登録されていることからシェアオフィスのニーズがあると見込んだのです。このニーズを満たすと同時に、溝の口エリアの価値を高めたいという思いもありました。

▲1階玄関脇のカフェ(テイクアウト専用のコーヒー店)は元々は待合室でした

工期は約3ヶ月、改修費用は約2400万円

昭和初期のモダンなつくりを活かすため、改修工事は最小限かつ丁寧にデザイン・施工が行われました。

1階のかつて診療室だった部屋はレンタルスペースになりましたが、床の木は当時のままで削れた跡も残っています。

1階奥の元住居は共有ラウンジになりましたが、和室の柱は抜かず木の柱は健在です。

2階の廊下はほとんどいじらず、照明を足して明るさを確保するなどしました。玄関や共用部に置かれている古い家具は元々あったものを利用しています。

以前は高い塀に覆われていたのですが、この外壁を撤去したことで外からの視認性が大きく上がり、まちに開かれたオープンな雰囲気を出すことに成功しています。

その他に電気工事や水道工事など一つ一つの作業に時間がかかりましたが最終的な工期は約3ヶ月、改修費用は約2400万円でした。

▲元々の内装の味わいを活かしています

まちをよく知る不動産会社と地元に住まう大家とが一緒に会社を作った

建物の再生にあたって前述の不動産会社エヌアセットと地元の大家2名で「のくちのたね株式会社」という会社が設立されました。のくちのたねが所有者からサブリースや改修して貸し出し、運営、企画、集客を行い、エヌアセットは入金管理を行います。

大家の越水隆裕氏は地元である高津区を盛り上げようという団体やまちの清掃をするボランティア団体、セミナー開催などの活動を行っています。もう一人の大家の石井秀和氏は自社の物件にまちの人が集まるスペースを作りマルシェを開催したりしています。

エヌアセットは地域の人や活動を地域の人と一緒に楽しむイベントや農家を営む大家の野菜を売る直売市を開催するなど、様々な機会で地域住民と交流しています。

▲nokuticaのInstagramより。他にFacebookでも情報発信されています

供給不足なシェアオフィスの需要を満たす、外壁を撤去したことによる視認性向上、不動産会社と大家との協働

子育てや介護をしている人でも自宅近くで働ける、様々な業種や職種の人と執務スペースを共有することで新しいアイデアやコラボレーションのきっかけとなる、通勤や移動が減って生産性や利便性が向上する、など様々な利点があるシェアオフィスやコワーキングスペースは今後ますます各地に必要になっていくと思います。

溝の口で確実にニーズがありつつも供給されていなかったシェアオフィスへと再生させるという着眼点は、持続可能な事業を進める上で重要だと感じます。

次に、築90年以上の歴史を刻んできた建物の内装を活かす改修は素晴らしいとしつつも、特に外壁の撤去を思い切って実行したことに注目したいです。

まちに開かれた存在となるためには障壁は出来る限り無くした方がよいです。グラウンドレベルからの視認性が向上したことで気軽に入りやすい雰囲気が出てカジュアルな印象を与えてくれます。

最後に、不動産会社と大家とが一緒に経営にあたるということの価値です。不動産会社と大家はビジネスパートナーであったとしても、同じ会社を作るということはレアケースです。

これは溝の口エリアの価値を高めるという共通の目的があるからこそできる協働であり、他地域でも応用できる考え方だと思います。今回の再生は第一弾の取組とのことで今後の展開が楽しみです。

▲毎月のように各種イベントを開催されています。

【著者】空き家グッド
「空き家の活用で社会的課題を解決するブログ」を運営。東京都吉祥寺周辺であまり使われていなさそうな住宅の所有者へ、子どもや若者、子育て世帯など未来の世代のための住宅活用を提案中。
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