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小規模認可保育所のパイオニア「おうち保育園」の社会的インパクト

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小規模認可保育所のパイオニア「おうち保育園」の社会的インパクトのイメージ

2015年4月から「子ども・子育て支援新制度」がスタート

少子化が止まりません。厚生労働省の集計によると2019年における日本人の国内出生数は86万4千人となり、1899年の統計開始以来初めて90万人を下回りました

子どもを産み育てながら働ける環境の整備が急務である状態が長く続いています。待機児童数は2019年4月時点で全国に16,772人、認可保育施設を希望して入れなかったにもかかわらず「待機児童」にカウントされない「隠れ待機児童」は7万3927人にも上っています。

一方で、2015年4月からスタートしている「子ども・子育て支援新制度」により保育施設数は年々増加しています。中でも待機児童が特に多い0〜2歳児を少人数で保育する「地域型保育」の増加が目立っています(下図のピンクの部分)。

(出典:保育所等関連状況取りまとめ(全体版)(PDF)P.2

「小規模保育」が増加している理由

4つのタイプがある「地域型保育」は、定員6〜19人を対象とする「小規模保育」が大半を占めています。2018年4月時点だと「地域型保育」5,814件のうち「小規模保育」は4,298件にも上ります。

待機児童は都市部に集中し、その大半が0〜2歳児です(2019年は87.9%が低年齢児)。しかし都市部では大型の保育所を作ることができる土地の確保は困難です。仮に土地が確保できて保育所を新設したとしても、保育士不足や立地的な要因で入所申し込みが少ないなどにより児童定員割れ(空き定員)が発生しています

余剰の土地と働ける保育士の確保、エリア別の保育需要の予測が難しい中、定員20人以上の保育所ばかりを作り続けるのは利用者のニーズ、事業の持続可能性、両方の観点から効果的ではありません。

そこで、都市部の各地でゲリラ的に生まれる保育需要に対しピンポイントで開設でき、既存ストックである空き家を活用するため初期コストが安価であり機動性に優れているなど、待機児童問題の解決の切り札として「小規模保育」が着々と整備されるようになってきました。

▲小規模認可保育所「おうち保育園門前仲町」元々は下町風情漂う印刷工場だったそう

「定員20人以上」に根拠なんてなかった

「小規模保育」が国の認可保育所となるまでは、認定NPO法人フローレンス(以下、フローレンス)が2010年に立ち上げた小規模保育所「おうち保育園」の理論と実践が深く関わっています。

代表理事の駒崎弘樹さんが小規模保育所を作ろうと思ったきっかけはフローレンスの職員が出産し育休を取り1年経って仕事に戻ろうとするも保育園に入れなかったため職場復帰できないという状況を知ったことです。

駒崎さんは認可保育所を作ろうと思い役所に問い合わせますが「定員20人以上いないと認可しない」と言われます。前述のとおり20人以上の大型の保育所を作るには限界があり必ずしも効果的ではありません。

そこで駒崎さんは「そもそも定員20人に根拠があるのか」を厚生労働省に聞くと「昔からやっていたから」という回答が返ってきます。

明確な根拠が無いことがわかり駒崎さんは厚労省に掛け合い、交渉を繰り返すなどして実験的に小規模保育所を開設する許可を得ることに。2010年4月、待機児童急増地帯である江東区の豊洲エリアで都市再生機構(UR)のマンションの空室を借り「おうち保育園しののめ」を開設します。

▲小規模認可保育所「おうち保育園しののめ」。記念すべき1園目のおうち保育園

「小規模保育」の国策化と制度設計への関与

「おうち保育園」には数多くの政治家や官僚が視察に訪れました。中でもかつて冤罪被害を受け、のちに厚生労働事務次官になり当時は待機児童対策特命チームの事務局長だった村木厚子さんが注目するなどして、「ミニ保育所(=おうち保育園)」の普及などが待機児童問題解決の政策として国策化されました

その後も旧知の政治家や官僚への働きかけや視察の受け入れ、提言を続け、市区町村などを巻き込み、様々な地域で「おうち保育園」を開設し(2019年12月現在は東京地区に13園、仙台地区に3園)、小規模保育所の運営ノウハウを蓄積しつつ実績を作っていきます。

2013年には「全国小規模保育協議会」という業界団体を作り、駒崎さん自ら理事長に就任。小規模保育業界の有識者として国の審議会の委員となることで現場の意見を政策立案に反映させ、詳細な制度設計に深く関わることが可能となりました。

(出典:全国小規模保育協議会とは?)政策提言のほかにも、普及活動、事業者が安心して施設運営できる環境整備、団体保険など、小規模認可保育所のプラットフォームとしての役割を担っています。

小さなソーシャルイノベーションを大きなスケールに育てる政策起業

著書に「シンクタンクとは何かーー政策起業力の時代」がある船橋洋一さんと駒崎さんとの対談記事の中で、「社会の現場から課題を取り出して解決策を提示し、それを政策に反映して社会に広げていくという活動」として駒崎さんの取組が「政策起業」という概念で紹介されています。

「日本の社会に役に立つことをしたい」と考えた駒崎さんが行き着いたのは、事業によって社会の課題を解決する社会的企業でした。2005年からサービスを開始した訪問型病児保育が成功し、厚生労働省からの視察を受けた数ヶ月後に国策として訪問型病児保育が始まります。しかし、事業者のインセンティブをつける補助金の価格設定などが甘かったために政府の病児保育制度は数年後に打ち切られてしまいます。

この経験を踏まえ「小規模保育(おうち保育園)」のときには、最初から国策化されることを見越して事業を立ち上げます。政治家や官僚の視察の受け入れや働きかけ、業界団体を作り役職に付くことで国の審議会のメンバーになるなど、政治や行政の思考原理や行動様式を理解した上で周到な準備をして、制度設計の初期段階から政策立案に関わってきました。

事業を通して社会的課題に対して解決策を提示することでソーシャルイノベーションを起こす「社会起業家」に加え、そのソーシャルイノベーションを大きなスケールに育てるために政治や行政に介入して制度化の支援を図る「政策起業家」としての側面も兼ねている駒崎さんの日々の実践はご自身のブログツイッターで発信されています。

▲小規模認可保育所「おうち保育園おおいまち」。元々は実家で経営されていた医院でしたが廃院となって空きテナントとなっていました

【著者】空き家グッド
「空き家の活用で社会的課題を解決するブログ」を運営。東京都吉祥寺周辺であまり使われていなさそうな住宅の所有者へ、子どもや若者、子育て世帯など未来の世代のための住宅活用を提案中。
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