不動産投資においてプロフェッショナル投資家とアマチュア投資家の決定的な違いはリスクの認識の差にあります。
つまり、プロフェッショナル投資家はリスクとリターンを現実的に認識していますから、リスクに対するマネジメントとリターンを最大化するテクニックを持っています。
一方、アマチュア投資家はリターンに対する期待が高過ぎるため、リスクを認識しても現実的に対応しない傾向が強くリターンも最大化を享受できません。
そこで、本ページでは不動産投資リスクを3つに大別して理解し易くすると共に、不動産投資に失敗しないための4つのコツについて考えました。
不動産投資には様々なリスクが伴いますが、不動産価格の値下がりリスクは不動産を売買する場合の最大のリスクです。
というのも不動産投資においては居住用であれ賃貸用であれ、常に価格が変動するものに投資するという側面があることは否定できないからです。
つまり、居住用の場合でも数年で大きく値上がりすれば売却して利益確定するケースは少なくありませんし、純投資の場合は短期売買が多いことは言うまでもないことです。
そこで、過去の不動産価格の推移を調べることで、不動産価格の値下がりリスクをある程度リスクマネジメントすることができます。例えば、直近の東京23区標準タイプ新築マンション価格推移は以下の通りです。
西暦 | 万円/平米 | 対前年比 |
---|---|---|
2008年 | 79.8 | – |
2009年 | 75.5 | -5.4% |
2010年 | 78.5 | +3.9% |
2011年 | 77.3 | -1.6% |
2012年 | 77.6 | +0.3% |
2013年 | 81.0 | +4.3% |
2014年 | 85.9 | +6.0% |
2015年 | 93.5 | +8.8% |
2016年 | 93.4 | -0.2% |
2017年 | 98.9 | +5.8% |
2018年 | 101.0 | +2.1% |
2019年 | 100.9 | -0.1%(予想) |
2020年 | 98.5 | -2.4%(予想) |
(日本不動産研究所)
上記の通り2009年から2018年の数字を見ますと対前年度比の値上がり率は2015年の+8.8%が最高で、値下がり率は2009年の-5.4%が最悪の数字です。
従って、2009年以降の東京23区標準タイプ新築マンション価格推移に於ける不動産価格値下がりリスクは-5.4%程度と言えます。
また、上記の日本不動産研究所の調査の前の2006年~2008年の住宅地価については、野村不動産アーバンネット住宅地価格変動率(首都圏エリアの単純平均・3ヶ月毎)が参考になります。
野村不動産アーバンネット住宅地価格変動率(首都圏単純平均・3ヶ月毎) | |
---|---|
2006年 | 変動率+1%~+5% |
2007年 | 変動率+3%~-2% |
2008年 | 変動率-2%~-4% |
上記の通り2006年のピーク変動率は+5%で2008年のボトム変動率は-4%ですから、この間の不動産価格値下がりリスクは-9%と見ることができます。
更に、遡ってバブル崩壊時の全国市街地価格指数によりますと、ピークの1989年12月から1990年末に掛けて全国市街地価格指数は約30%下落しています。
従って、バブル崩壊以降の年間の不動産価格値下がりリスクは、-5.4%~-30%程度であることを過去の実績が教えています。
価格変動リスクの2つ目は家賃の値下がりリスクです。不動産投資においては賃貸に出すことを前提にしたワンルームマンション投資や、アパート・マンションの1棟買いなどの投資が増えています。
これらの賃貸用ワンルームマンション投資やアパート・マンションの1棟買いが増えた要因は、相続税の節税対策や超金融緩和の影響でサラリーマンの投資家が増加したことに加え中国裕福層の買いなどが考えられます。
そして、家賃の決定要因として考えられるのは、駅からの距離などの立地や部屋の面積・築年数・階数・建物構造(アパートorマンション)などによります。
特に、家賃は新築時点と比べると築10年で5%~10%・築20年で10%~20%程度は下落するのが普通です。従って、物件毎にこれらの要因を現実的に分析しておけば、将来の家賃の値下がりリスクをリスクマネジメントすることができます。
価格変動リスクではありませんが、金利上昇リスクも投資家側の想定を超える場合があるリスクとしてリスクマネジメントする必要があります。
多くの場合、不動産投資においてはローンを組んで物件を購入することがありますし、現在の様な超低金利下では将来的に金利が上昇した際には返済額が大きく増えるというリスクが十分に考えられます。
従って、その様なリスクを考えた上で返済期間中に金利が上昇したとしても、返済が滞らないような返済計画を建てることが重要となります。
そして、何よりも最初の段階で無理なローンを組まないことが前提と考え、フルローンなどはもってのほかで少なくとも30%・できれば50%程度のキャッシュを用意した上でローンを組むことが将来的な金利上昇リスクに備える前提となります。
数ある不動産リスクは始める前にチェックし対策を!物件価格の下落や空室リスクが心配、不動産投資デメリットにはどう対応すればいいの?と不安な方はコチラへ
そして、オーナーにとって前項の家賃の値下がりリスクよりももっと深刻なのは、賃貸に出した部屋の空室リスクです。
一般的に空室リスクは物件立地・物件人気・管理会社営業力の影響が強いと言われ、この3つの要素を見極めて投資することが空室リスクを抑える重要なポイントとなります。
特に、最近は不動産会社や管理会社によるサブリース契約が多くなっていますが、サブリース契約により家賃の値下がりリスクや空室リスクの全てが解決する訳ではありません。
多くのケースを見ますとサブリース契約は2年毎に更新されることが多いので、極端なケースでは2年後の保証家賃が2割以上下がるケースもある様です。
つまり、物件立地・物件人気・管理会社や営業力が劣る物件は将来的な空室リスクを想定する必要があると言えます。
また、賃貸中にも関わらず家賃が入金されない家賃滞納リスクも想定しておく必要があります。
管理会社との契約内容にもよりますが、多くの場合、家賃滞納リスクは管理会社の責任で対応されます。
従って、初期段階で管理会社の選択の仕方が後々の家賃滞納リスクに関わることになります。
また、管理会社とサブリース契約を結んでおけば家賃滞納リスクをカバーすることができますし、保証会社の滞納保証システムを利用するという手もあります。
大事なことは最初の入居審査に於いて短期間で住民票の異動を繰り返していないか、過去に金銭問題などがないかといったことを調べればリスクマネジメントに繋がります。
瑕疵物件は物理的な瑕疵物件と心理的な瑕疵物件に分けて考える必要があります。
物理的な瑕疵物件とは雨漏りやシロアリ被害•建物の傾きなどの構造上の欠陥など建物自体に欠陥が生じている物件を意味します。
この様な物理的な瑕疵は契約前の現地調査や契約時の重要事項の説明で確認することができます。
また、心理的な瑕疵物件とは物件で殺人や自殺や事故よって死人が発生した場合や、強盗などの事件が有った物件を意味します。
これらは宅地建物取引業法では重要事項説明での告知義務が定められていますが、説明されない場合や聞き洩らす場合もあります。
現在、一般的には以下の様に決められています。
心理的瑕疵 | 告知義務 |
---|---|
室内での殺人事件 | 原則告知 |
室内での自殺 | 原則告知 |
室内での自然死 | 告知義務なし |
屋上からの飛び降り自殺 | 告知義務なし |
加えて、購入後に心理的瑕疵がある物件であることが判明した場合、一体、どの様な対処方法を考えれば良いのでしょうか?
もちろん、心理的瑕疵があることを知りながら売主が契約時に話さなかった様なケースでは、契約の解除と被った損害の賠償を請求することができます。
しかしながら、契約時には心理的瑕疵物件ではなかったものの、購入後に心理的瑕疵物件であることが解った場合は少し事情が異なります。
例えば、近隣からの騒音が酷い場合や近隣からの異臭が耐えられない場合・日照障害が酷い場合・暴力団関係者が住んでいることが解った場合などです。
この様なケースでは弁護士などの専門家の代理人を立てて交渉した方が無難です。
もう1つの老朽化などによる物件損壊修繕リスクは不動産特有のリスクです。
なぜなら、株式・FX・外債などの金融商品の投資では起こり得ないリスクだからです。
例えば、給排水設備の故障や天井の劣化による雨漏り・外壁劣化などが多い訳ですが、これらの殆どは老朽化が原因です。
つまり、あらかじめ長期の修繕計画を立てておけば防げるリスクも少なくありませんので、良い管理会社を見つけ長期の修繕計画を依頼しておく必要があります。
また、賃貸借契約中の建物の破損・汚損は誰が修繕すべきか、費用は誰が負担すべきかが問題になるケースが多く見られます。
つまり、賃借人の故意・過失で破損・汚損した場合は賃借人が修繕義務を負うことが民法で定められています。
一方、賃借人の故意・過失ではなく自然損耗や自然災害や第三者の行為などで破損・汚損した場合は、オーナーが必要な修繕をする義務を負うことが民法616条に定められています。
いずれにしても、不動産投資において瑕疵物件・物件損壊修繕リスクについては、十分なリスクマネジメントが必要となります。
近年、台風や地震・津波による自然災害が増えていますので、災害による建物の損壊についても想定する必要があります。
大原則としては自然災害による修繕はオーナーの負担となりますから、建物のオーナーは保険に加入して備える義務があります。
自然災害や火災で賃貸物件の建物や設備に損傷があった場合は、建物全部が損壊してしまわない限り賃貸借契約自体は継続されるからです。
但し、借り主の過失によって建物や設備が損傷した場合は、借り主負担となる場合があります。
例えば、台風が来た時に窓を閉め忘れ室内が損傷した場合、
倒れやすい植物を置き窓ガラスが破損した場合、危険物の置き場所を間違えて火災が発生した場合などです。
不動産投資においては以下の税金を支払わなければならないことは言うまでもないことですから、これらは税金リスクとは言えません。
ここで言う税金リスクとは本来、想定されていなかった税金が後々かかって来ることを意味します。
種類 | 税額 |
---|---|
売買契約書に貼る「印紙」 | 1,000万円~5,000万円 1万円 5,000万円~1億 3万円 1億~5億 6万円 |
登録免許税 |
売買による所有権移転 固定資産税評価額×1% 抵当権の設定 債権額×0.4% |
不動産取得税 |
土 地 固定資産税評価額×1/2×3% 建 物 固定資産税評価額×3% |
固定資産税 | 固定資産評価額×税率で1.4%が標準税率 (土地と建物の評価額が2,000万円で28万円) |
例えば、当初はローンの経費割合が大きいため節税になっていたケースにおいて、減価償却費が耐用年数を超えれば無くなることによりローンで経費にできる部分が減り元金の返済部分が大きくなってしまいます。
その結果、経費化できる減価償却費+利息部分が元金返済の額を上回り、帳簿上は黒字になることで所得税が増えることになります。
この様な後々の逆ザヤ状態は正しく税金リスクと言えます。
最近、管理会社の倒産や不祥事が少なくありません。もちろん、マンションの管理組合は管理会社を選べますから、管理会社の倒産により直ちにマンションの管理が立ちいかなくなる訳ではありません。
しかしながら、当初の管理会社が倒産することで、中長期的にコストがアップする場合がありリスクとなる場合も出て来ます。
特に、オーナーが賃貸管理を依頼している場合は、敷金•家賃•原状回復費用・クリーニング費用などが回収できなくなる可能性もあります。
従って、賃貸住宅管理業者登録制度などに登録することもリスクマネジメントの方策と言えます。
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避けられない不動産投資リスク。でも、リスクを最小化するコツを知っておけば初めての不動産投資も怖くありません。不動産投資の出口戦略や低リスク物件を見つけるテク…
世間を騒がせたシェアハウスかぼちゃの馬車運営のスマートデイズ社の経営破綻は、スルガ銀行が不正融資に加担していたことが解り大事件に発展しました。
合計1,200人とも言われるシェアハウスかぼちゃの馬車のオーナーの年齢を見ますと、最も多いのは40代で37%これに30代と50代を合わせると96%で職業は会社員が大半で他に医師や公務員などの働き盛りの人達でした。
平均借入額は1棟当たり1億3,000万円程で中には2棟・3棟に投資していた人もいました。
なぜ、これだけ多くの会社員や医師・公務員がコロッと騙されたのでしょうか?
彼らの知的水準や社会的経験を考えると簡単には騙されないはずですが、シェアハウスかぼちゃの馬車のスキームやサブリース契約を信じたのはなぜでしょうか?
おそらく大部分のオーナー達が最初からシェアハウスかぼちゃの馬車のセールストークに疑問を抱くことなく、ろくに現地調査を行わずに契約に至ったと推測されます。
さらに、当時は地銀の優等生だったスルガ銀行の融資決定がオーナー達の背中を押したと考えられます。
今の世の中、強力にセールスを展開する商品には気を付けなければなりません。
逆説的ですが本当に良い物は全く宣伝しなくても売れるからで、それはインターネットの発達による情報の平準化により消費者が得た特権とも言えるものです。
従って、その様な特権を捨ててまで業者のセールストークを信じ込むのは、ラスベガスでカジノに大金を投じるのと同じです。
そこで、業者のセールストークを鵜呑みにしない代わりに行うべきことは徹底した現地調査です。
シェアハウスかぼちゃの馬車の件で言えば、現地の他の不動産業者を訪問して賃貸アパートやシェアハウスについてヒアリングするのが有効でした。
また、現地の賃貸アパートやシェアハウスについて、ネットで検索すると何らかの情報がヒットしたはずです。
さらに、シェアハウスかぼちゃの馬車運営のスマートデイズ社のライバル社に投資家として相談するのも良い方法だったでしょう。
そして、もう1つ大事なことは長期的な視点で不動産投資を考えることです。
なぜなら、株式投資や債券投資は短期投資に比べて長期投資になればなるほどリスクが低くなりますが、不動産投資は長く続けるほどリスクが高まるという特徴があるからです。
それは、築年数が経てば経つほど建物は劣化するため、居住者には修繕のコストが掛かり賃貸オーナーにとっては経年とともにコストは増えて収入である賃料は下落します。
従って、長く収益を上げ続けるための仕組みをつくることが大事で、5年というスパンで物件のエリア・物件の立地・物件のコストパフォーマスを見直していくリスクマネジメントが求められます。今後の日本においては短期売買で巨額の利益を上げるのはかなり難しいと考えられるからです。
構造 | 年数 |
---|---|
木造や軽量鉄骨 | 22年 |
重量鉄骨 | 34年 |
RC造SRC造 | 47年 |
不動産投資に失敗しないコツの3つ目は不動産の現物資産としての価値を見極めることです。
同じ投資物件でも株式や債券はペーパーですからそれ自体に価値はありませんし、先物やオプション・仮想通貨については概念ですから同様にそれ自体に価値はありません。
一方で、現物資産である土地・建物・貴金属などはそれ自体に価値があるもので、他にも原油・穀物・非鉄金属などは現物資産です。
従って、特に、不動産投資の場合は物件によりケースバイケースですから、オーナー自身がその物件の特徴を把握して現物資産としての価値を見極めなければなりません。
そして、想定されるリスクに対しては保険を掛けることがリスクマネジメントとしては一般的です。
保険料はすべて経費計上できるので費用を掛けずにしっかり備えておくことが重要です。
特約 | 内容 |
---|---|
家賃損失補償特約 | 修繕で家賃が得られない期間の損失が補償される |
盗難・事故による破損・汚損特約 | 盗難や引っ越し時に壁に穴が開いた・ガラスが割られたなどが障される |
建物電気・機械事故特約 | エレベータや水道ポンプ・電気機械設備の故障が保障される |
地震火災特約 | 地震・噴火またはこれらによる津波を原因とする火災での損害の補てん |
不動産投資のベテラン投資家に言わせますと信頼できる不動産会社や管理会社を見つけることに加えて、信頼できる不動産会社担当者や管理会社担当者に巡り合うことの重要性が強調されます。
これらは大手の会社だから良いということや創業年数が長い会社が良いという様な訳ではなく、人と人との出会いの中から見つかるわけですから一朝一夕にはいきません。
ただ、最近の傾向として言えることは、ここ数年で急成長している不動産会社は避けた方が良いということです。前年同期の売上を上回るために無理な営業もいとわないからです。
また、担当者の場合は若手よりもベテランの方が知識や経験が豊富で外れが少ないと言えます。
特に、入社3年以内の新人社員は会社の受け売りが多いので外れが多そうです。
この様な観点に注意して接していれば、やがて、信頼できる会社や担当者が見つかるのではないでしょうか。
最後にまとめとして、不動産投資リスクをマネジメントする上で避けた方が良いことをいくつか例示します。
それでは順番に見ていきましょう。
まず、1つ目としては無理をしないことです。例えば、急にすすめられた物件に一目惚れし資金も準備できない内にフルローンで買う様なケースです。
また、営業マンにせかされて追い立てられる様にして無理に買うケースです。
不動産投資に限らず投資に無理は禁物で無理な投資は失敗の確率が高まることを過去の事例が教えています。
2つ目は急いで投資することです。最近はスマホの普及で写真や動画が一般的になったこともあり、現地調査もしないで即断即決する投資家も多いと聞きます。
特に、忙しいビジネスマンや医師などがワンルームマンションに投資する場合に、立地や物件を確認することなく投資するケースも少なくありません。
この様な投資は最初から不動産投資リスクの確率を投資家自身が上げているのです。
3つ目は投資家自身の判断で投資することです。仮に不動産会社の営業マンの営業トークを鵜呑みにして買ったとしても、最終的なリスクは全て投資家自身の自己責任となります。
従って、他人の判断に任せて投資することはお金をドブに捨てるのと同じで、後々、後悔するケースが多いのです。
4つ目は投資には場合によっては損をした方が良い場合もあるということです。つまり、投資に失敗したと気付いた時は躊躇なく意地を張らずに撤退する勇気が大切です。
損失が拡大しない内に撤退できれば次の投資で取り返すことも可能ですが、シェアハウスかぼちゃの馬車の様なケースでは再起不能に陥る恐れもあるからです。