不動産投資と融資は切っても切れない関係で、とくに、現在のような歴史的な低金利時代では良い融資条件を得ることが不動産投資の成否を決する場合も少なくありません。
そこで、今回は不動産投資の融資条件にフォーカスして、良い融資条件を得るための4つのポイントについて、データや具体例を示しながら説明していきます。
これらを少しでもお考えなられたことがあるなら、当ページがお役に立つと思います。
まず、今回のテーマの1つである不動産投資ローンの融資条件について見ていきますが、もともと、不動産投資ローンとは1棟アパートや区分マンションなどの収益物件を購入するために銀行や信用金庫などの金融機関から受けるローンを意味します。
また、賃貸目的以外に1棟アパートや区分マンションなどの収益物件をローンで購入する場合も含まれます。地価が上昇すると読んだ投資家が区分マンションや一戸建てをローンで先買いすることもあるからで、いずれにしても、投資家自身の居住用以外の目的で使うローンは不動産投資ローンと言えるわけです。
加えて、住むために組まれた住宅ローンは収入さえ安定していれば返済が滞る心配は少ないので審査基準は比較的緩めになりますが、儲けるために組まれた不動産投資ローンは不動産投資事業を行う際に生じるさまざまなリスクを考慮して厳しい審査基準が設定されています。
また、金利などの融資条件についても住宅ローンよりも不動産投資ローンの方が高く設定されています。
そして、不動産投資ローンには変動金利型と固定金利型の2つのタイプがあり、変動金利型の金利は原則半年に1回見直され返済額は5年に1回見直しがあります。一方、固定金利型は契約した全期間は同一金利の商品で1年固定・3年固定・5年固定などの固定年数を選ぶことができますが、一般的に固定年数が長いローンの金利は高くなります。
現在のような超低金利時代においては目先の金利が変動金利型のローン金利の方が低いことから、変動金利型を選ぶ投資家が多いのが現状です。
不動産投資ローンの融資条件の一例として、東京スター銀行のスター不動産担保ローンの融資条件を紹介します。
■東京スター銀行スター不動産担保ローン融資条件
利用できる人 | 年収200万円以上の日本国籍・外国籍永住権の方 年齢が満20歳以上69歳以下で完済時84歳以下の方 当行所定の審査基準を満たしている方 |
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資金使途 | 資金使途自由(事業性の融資を除く) |
融資金額 | 100万円以上1億円以内(10万円単位) |
融資期間 | 1年以上20年以内(1年単位) |
返済方法 | 元利均等月賦返済 |
借り入れ金利 | 住宅ローン基準金利に当行所定の調整幅を付加 |
担保 | 本人または配偶者等の所有する不動産に抵当権を設定 |
保証人 | 保証会社や第三者による保証は原則として必要なし |
一般的に住宅ローンには独立行政法人や地方自治体が融資する「公的住宅ローン」と、銀行や生命保険会社・信販会社などが融資する「民間住宅ローン」、フラット35などの「民間+公的ローン」があります。
先にもお伝えしましたが、住むため(生活するため)に借りるローンであるため、不動産投資ローンよりも融資条件は低く、間口は広めです。
「フラット35」の融資条件は以下の通りです。
■三井住友信託銀行フラット35融資条件
利用できる人 | 日本国籍・外国籍永住権の方 年齢が満70歳以下の方 |
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資金使途 | 本人および親族の方が住むための住宅・住宅の建築または新築住宅・マンション・中古の住宅・マンションの購入。 |
融資金額 | 100 万円以上 8,000 万円以内 |
融資期間 | 15年以上35年以内(1年単位) |
返済方法 | 元利均等月賦返済または元金均等返済 |
借り入れ金利 | 全期間固定金利・融資実行時の金利が適用される |
担保 | 住宅金融支援機構を抵当権者とする抵当権を設定 |
保証人 | 必要なし |
■2019年5月現在フラット35金利情報
返済期間 | 15年~20年・21年~35年 |
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金利 | 年1.230%~年1.910%・年1.290%~年1.970% |
最頻金利 | 年1.230%・年1.290% |
不動産投資ローンと住宅ローンの違いについて、まず、ローンとしての目的の違いから考えてみます。
不動産投資ローンは賃貸用マンション・一棟アパートなどへの投資のため、
一方、住宅ローンは本人や家族が住むための居住用マンションや一戸建の購入のためです。
不動産投資ローン返済原資は賃貸用マンション・一棟アパートなどからの賃貸料が宛てられ、住宅ローンの返済原資は本人の収入となります。
つまり、言い換えれば不動産投資ローンは儲けのためのローンですが住宅ローンは生活のためのローンと言えますから、2つのローンに対する金融機関の対応は自ずと異なります。不動産投資ローンと住宅ローンの主な違いは以下の通りです。
■不動産投資ローンと住宅ローンの主な違い
不動産投資ローン | 住宅ローン | |
---|---|---|
審査 | 厳しい | 普通 |
返済原資 | 賃貸収入 | 本業収入 |
金利 | 住宅ローンより高い | 最優遇貸出金利 |
返済期間 | 20年以内が多い | 35年もあり |
都市銀行の融資条件は高く、地方銀行は比較的低い傾向に
一般的に三菱東京UFJ銀行・みずほ銀行・三井住友銀行・りそな銀行など都市銀行の不動産投資ローンの融資条件は、ハードルが高く設定されています。
言い換えれば都市銀行の不動産投資ローンは、年収1,000万円前後のハイスペックの人が融資を受けやすいローンと言えます。
なぜなら、都市銀行不動産投資ローンの融資条件は最優遇の融資条件ですので、
審査もハイレベルの属性が求められます。
例えば、地方銀行や信用金庫の金利が2.0〜3.5%からスタートするのに対し、
都市銀行は初めから1%台の金利が期待できます。
また、限度額については8,000万円~1億円に設定している銀行が多くなっています。
ただ、現在、都市銀行各行は不動産投資ローンの取り扱いを相当、慎重に行っていますから、詳細は個別に問い合わせることをお奨めします。
地方銀行と信用金庫の不動産投資ローンについては、個別行の対応に大きな温度差が見られます。
まず、不動産投資ローンに対して横浜銀行などの上位地方銀行は都市銀行と同様の対応で、年収700万円前後の人が金利2.0〜3.5%・8,000万円程度の限度額で融資を受けやすい金融機関でした。
ただ、スルガ銀行の不動産投資に対する不正融資が発覚して以来、不動産投資ローンに積極的だった首都圏の地方銀行や静岡銀行・関西アーバン銀行などの地方銀行は不動産投資ローンの取り扱いを相当、慎重に行っています。
一方、東京スター銀行やSBJ銀行は不動産担保ローンとして、実質的に不動産投資ローンを継続しています。
変動金利型とは返済途中に定期的に金利が見直されるタイプのローンで、固定金利型は契約年限内の金利が固定されたローンを意味します。
現在の金利水準は歴史的な低金利水準ですから、これ以上、金利を下げることはできません。ですから、銀行は固定金利型のローンよりも変動金利型のローンを推奨します。現在の金利で固定金利型のローンを増やすと、将来の金利上昇局面で貸出金利が調達金利を下回る逆ザヤになる恐れがあるからです。
そのため、各銀行は変動金利型の金利を魅力的に見せるため、固定金利型のローンよりも相当、低い金利を採用しているのです。
変動金利型と固定金利型ローンのメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
変動金利型ローン | 固定金利型よりも金利が低く設定されている 金利上昇までは低金利が続く |
将来金利上昇リスクがある 金利上昇で返済額が増え返済が苦しくなる |
固定金利型ローン | 金利変動がない安心感 返済額が同じなので収支計画が立て易い |
変動金利より金利が高く設定されている 低金利が続くと変動金利より返済額が多くなる |
不動産投資ローンの審査の手順は各銀行により詳細は異なりますが大事なポイントは同じです。そこで、オリックス銀行の不動産投資ローンの審査手順を参考に不動産投資ローンの審査手順を確認します。
■オリックス銀行不動産投資ローン審査手順■
ウェブサイトにて相談を受け付け。借り入れ条件の目安をシミュレーションできる。
相談内容に応じた事前審査を実施。
事前審査結果と正式な借入申込手続きの案内を電話連絡。正式な借入申込書および申込必要書類を提出。
提出した書類に基づき審査を実施。
融資内定の連絡を受けたのち住宅ローンプラザで契約。
融資金を振り込み。
次に不動産投資ローンの審査基準の1つ目のポイントは、物件の収益性(実質利回り)が高いことです。不動産投資ローンの返済原資は物件からの収益ですから、物件の収益性(実質利回り)はもっとも大事なポイントの1つです。また、物件周辺の取引実績とともに物件担保の評価も重要です。
2つ目のポイントは年収で不動産投資ローンの借入れ金額の目安は年収の5倍ほどとなっています。ですので、年収が高ければ借入金額も高くなるのが当然の流れです。
不動産投資ローンの審査基準の3つ目のポイントは勤務先の属性で、金融機関にとって安定した返済ができるかどうか勤務先の規模・資本金・売上高・勤務形態・勤続年数・勤務先での地位なども重要です。
4つ目のポイントは資産の有無で申込時の自己資金に加えて資産の額がチェックされます。
不動産投資ローンや住宅ローンでは、審査を行う上で申込者の属性が重要な要素となってきます。そこで、属性審査のポイントを押えることが重要ですが、そもそも、属性審査とは以下のポイントを審査することを意味します。
■属性審査の項目
個人情報 | 氏名・年齢・住所 |
---|---|
勤務先情報 | 職業・雇用形態・勤務先・勤続年数・年収 |
住居の状況 | 居住形態・居住年数・住宅ローンか家賃の負担額 |
家族状況 | 家族構成 |
その他 | 健康保険の種類・電話の種類 |
上記の各項目を審査することで金融機関がチェックしたい属性審査のポイントの1つ目は、申込者の過去の借入額や延滞情報の確認です。これらの情報は個人信用情報機関に照会して確認することになります。
属性審査のポイントの2つ目はいわゆる反社会的勢力やそれに類するものとの繋がりです。この1つ目と2つ目のポイントで問題が見つかった場合は、直ちに審査は打ち切られることになります。
属性審査のポイントの3つ目は属性審査から得られる申込者のクレジットポイントにより、ローンの金利や融資上限額が決められることです。当然のことですが属性審査により高いクレジットポイントが確認された場合は、より低い金利で多額の融資額を得ることができます。
ローン審査で申込者の過去の延滞情報や反社会的勢力との繋がりが出てきた場合、審査は直ちに打ち切られますが、それ以外の場合は属性審査でローンの成否が判断されます。
そして、ローン審査にパスして融資が決定した場合に、金利や融資限度額を決めるのは属性審査で得られたクレジットポイントなのです。
不動産投資の融資条件には通常、ある程度の幅が用意されています。
たとえば、金利の場合は年率2.0%~3.5%、融資限度額は1億円までというような形です。
このようなケースでクレジットポイントが最高ランクの申込者は、
適用金利2.0%・融資限度額1億円の回答を得ることができます。
一方、融資がOKになったもののクレジットポイントが最低ランクの申込者は、
適用金利3.5%・融資限度額4,000万円の回答しか得ることができません。
ここ数年の不動産投資ローンに対する当局の動きや不動産投資ローンの融資状況を時系列で見ていくと、現在、置かれている状況が見えてきます。
以下の「金融庁と日銀の動き」と「最近の不動産事故事例」をご覧下さい。
■金融庁と日銀の動き
2016年10月金融庁の金融行政方針 | リスク管理とリスクテイク戦略の高度化を各金融機関に要求 金融機関の健全性を保つことを目的とした注意喚起 |
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2017年3月日銀考査の実施方針 | 賃貸不動産向けの貸出については審査・管理において、与信機関や事業特性などを踏まえ、事業の将来性を適切に見極めること |
■最近の不動産事故事例
業者名 | 事故内容 | |
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2018年4月 | スルガ銀行 | 「かぼちゃの馬車」など投資用不動産への不適切な融資。 |
2018年4月 | スマートデイズ社 | 「かぼちゃの馬車」投資失敗で民事再生法の適用を申請し負債総額60億3,523万円。 |
2018年5月 | ゴールデンゲイン社 | シェアハウス運営で破産開始決定を受け負債総額約13億円。 |
2019年4月 | レオパレス21 | 施工不良のアパート14,599棟に拡大。 |
2019年4月 | 大和ハウス工業 | 全国で計2,000棟超の戸建て住宅と賃貸住宅について施工不備発覚。 |
上記の通り2016年10月金融庁の金融行政方針と2017年3月日銀考査の実施方針は、金融当局が各金融機関に対して不動産投資ローンの融資の健全性を改めて求めた通達です。
しかしながら、金融当局の懸念にもかかわらず、2018年のスルガ銀行の不正融資事件や「かぼちゃの馬車」事件が防げませんでした。また、レオパレス21や大和ハウス工業などの大手業者が長年に渡り施工不良を繰り返していました。
その結果として、現在、各金融機関は不動産投資ローンの融資・審査体制を見直している最中で、特に、これまで積極的に不動産投資ローンを推進していた金融機関は新規融資を中断しているところも少なくありません。
また、多くの金融機関は貸付債権の内容や融資の審査体制の点検に入っているはずです。
ですので、ローンの申込者から見ると、これまでよりも審査のハードルが高くなり、審査に多くの時間がかかっていることは間違いありません。
上記のように不動産投資ローンの融資条件は2~3年前に比べると相当、厳しくなっていますが、特に首都圏の新築物件の需要と供給は年々増えている傾向があります。
一方で全国的に人口減から空き家やアパート・マンションの空室が増えており、賃貸物件の需給バランスは崩れつつあると言えるでしょう。
特に、都市部の郊外や地方はその影響を大きく受け、空室の増加・家賃の下落といった悪循環が起きているエリアも増えてきています。
ですので、特に、東京五輪後においてはアパート・マンションの相場状況の悪化も予想され、これまでにも増して物件そのものの価値や立地が見直されそうです。
■首都圏新築マンション分譲戸数
平成27年 | 平成28年 | 平成29年 | |
---|---|---|---|
埼玉 | 3,892戸 | 4,005戸 | 4,156戸 |
千葉 | 3,879戸 | 4,621戸 | 3,910戸 |
東京 | 32,466戸 | 28,903戸 | 29,443戸 |
神奈川 | 8,373戸 | 11,629戸 | 10,001戸 |
合計 | 48,610戸 | 49,158戸 | 47,510戸 |
■まとめ
ここまで説明しました様に不動産投資ローンで良い融資条件を受けるには、属性が審査に影響し結果として融資条件に影響を与えることがわかります。
ただ、たとえ自身の属性が低いとわかっていても、日本には多くの金融機関がありますから自らの行動力・交渉力によって審査をパスできるケースもあるのです。
また、融資が引き締められ不動産市場が足踏みする中でも良い物件は出て来ます。 そのような環境下で金融機関から融資を勝ち取るには、自己資金を増やして融資額を下げることが審査に勝つ近道です。
つまり、物件のランクを落としてワンランク安い物件を選ぶことで、はるかに楽なローンを組むことができます。
そのためには入居率や賃料も含めて物件の価値や立地を十二分に吟味する根気と目が求められることになります。