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最近、資産家・サラリーマン・主婦などアパート経営を始める方が多いです。
その目的は、新たな資産所有や収益確保などにありますが、税金対策も目的の一つです。
この記事では、税金対策の御三家ともいえる相続税、固定資産税、所得税の節税対策と法人化についてそれぞれ解説します。
現金・有価証券は、相続税評価は100%です。一方アパート経営の土地・建物は相続税評価を大幅に下げることができます。またアパート建築・購入に伴う借入金全額が、財産評価から控除されます。これらの相続税評価減と債務控除により、相続税の減税となります。その仕組みを解説します。
相続税額の計算式は、
相続税 = (財産評価額 - 基礎控除額) × 相続税率
です。アパート経営が何故、相続税の税金対策になるのかを上記計算式の項目ごとに説明します。
財産の中には、プラスの財産とマイナスの財産があります。
プラスの財産には、現金・預金、金融商品(株式、投資信託、社債、保険など)、不動産などです。
マイナスの財産には、借入金、買掛金、税金などです。
財産評価額 = プラスの財産評価額 - マイナスの財産評価額
プラスの財産である現金・預金などは時価で評価されますが、アパート経営などの土地・建物は時価より下げて評価されます。結果として、アパート経営は他の財産と比較して相続税の減税効果を生じさせます。
土地は市街地の場合には路線価方式、市街地以外の場合には倍率方式で評価します。
路線価方式で評価する場合、地価公示価格の約80%の価格となります。土地に建物を建て賃貸すると貸家建付地評価となり、土地評価額はさらに約20%(借地権割合×借家権割合)下がります。また、「小規模宅地等の特例」を使うことが出来れば、そこから土地面積:200㎡を限度に土地評価額を50%まで下げることができます。(貸付事業用宅地)
倍率方式で評価する場合、固定資産税評価額に対して地区と土地の種類ごとで定められている倍率を乗じて評価額を計算します。一般的に地価公示価格の約70%になります。
建物の相続税評価額は固定資産税評価額が使われ、一般的に建築工事費の50%~60%の評価になります。さらに建物が賃貸されている場合、建物の相続税評価額は30%(借家権割合)下がり、70%の評価になります。
2015年の相続税改正後、基礎控除額は
基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人)
となります。
法定相続人の受取相続金額(基礎控除額控除後)によって税率が定められています。
受取相続金額が高額になるほど、税率も高くなります。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税 率 | 控 除 額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | ― |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
Δ相続税の速算表(平成27年1月1日以後の場合)出所:国税庁
【事例1】
ある男性が妻と2人の子供(法定相続人:3人)に遺産相続するため、相続税対策としてアパート経営を検討しています。所持金1億円を残した場合の相続税と、1億円を使いアパート経営を始めた場合の相続税をシミュレーションしてみました。アパート経営の概要は下記の通りです。
・土地:5,000万円、建物:5,000万円
・土地評価:路線価方式(80%)、借地権割合:60%、借家権割合:30%
・建物評価:固定資産税評価額:建物取得費の60%
・アパート入居状況:満室
1.現金1億円の相続税
相続税 ={1億円―(3,000万円+600×3人)}×30%-700万円 = 860万円
2.アパート(土地・建物)の相続税
路線価方式 貸家建付地(借地権割合×借家権割合控除)
土地評価額 =(5,000万円 × 80%) ×(100% - 60% × 30%) = 3,280万円
固定資産税評価 借家権割合控除
建物評価額 =(5,000万円 × 60%) ×(100% - 30%) = 2,100万円
アパート評価額 = 3,280万円 + 2,100万円 = 5,380万円
相続税 = {5,380万円―(3,000万円+600万円×3人)×10% = 58万円
現金1億円の相続税は860万円、1億円でアパートを購入した場合の相続税は58万円となり、802万円、93%の減税となりました。
「小規模宅地等」は、個人が相続または遺贈により取得した財産のうち、相続開始直前において被相続人等の事業用や居住用に供されていた宅地のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分をいいます。
「小規模宅地等」について相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額しますが、この特例を小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算を特例(「小規模宅地等の特例」)といいます。
「小規模宅地等」について、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、下表に掲げる区分ごとに一定の割合を減額します。
相続開始の直前における宅地等の利用区分 | 要件 | 限度面積 | 減額される 割合 |
|||
---|---|---|---|---|---|---|
被相続人等の 事業の用に 供されていた 宅地等 |
貸付事業以外の事業用の宅地等 | ① | 特定事業用宅地等に 該当する宅地等 | 400㎡ | 80% | |
貸付事業用 の宅地等 |
一定の法人に貸し付けられ、その法人 の事業(貸付事業を除く)用の宅地等 |
② | 特定同族会社事業用宅 地等に該当する宅地等 | 400㎡ | 80% | |
③ | 貸付事業用宅地等に 該当する宅地等 | 200㎡ | 50% | |||
一定の法人に貸し付けられ、その法人 の貸付事業用の宅地等 |
④ | 貸付事業用宅地等に 該当する宅地等 | 200㎡ | 50% | ||
被相続人等の貸付事業用の宅地等 | ⑤ | 貸付事業用宅地等に 該当する宅地等 | 200㎡ | 50% | ||
被相続人等の居住の用に供されていた宅地等 | ⑥ | 特定居住用宅地等に 該当する宅地等 | 330㎡ | 80% |
Δ小規模宅地等に適用される減額の割合等(出所:国税庁)
上表を簡略化しますと下表になります。
宅地の種類 | 宅地の内容 | 限度面積 | 減額割合 |
---|---|---|---|
特定居住用宅地 | 住宅で使用している土地 | 330㎡ | 80% |
貸付事業用宅地 | 人・法人に貸している土地 | 200㎡ | 50% |
特定事業用宅地 | 事業で使用している土地 | 400㎡ | 80% |
特定同族会社事業用宅地 | 同族会社が事業で使用している土地 | 400㎡ | 80% |
Δ小規模宅地等に適用される減額の割合等(簡略化)
小規模宅地等の特例は土地だけに適用されます。
【事例2】
ある男性が、住宅(土地相続税評価額:1億円、土地面積:400㎡)を所有しています。妻と2人の子供(法定相続人:3人)に遺産相続しますが、「小規模宅地等の特例」を使わない場合と使う場合と相続税をシミュレーションしてみました。
1.「小規模宅地等の特例」を使わない場合
相続税 = {1億円-(3000万円+3人×600万円)}×30%-700万円 = 860万円
2.「小規模宅地等の特例」を使う場合
特定居住用宅地に該当しますので、土地400㎡のうち、330㎡が80%減額されますので、減額費は
減額費 = 1億円 × 330㎡/400㎡ × 80% = 6,600万円
相続税評価額 = 1億円―6,600万円 = 3,400万円
相続税評価額:3,400万円が基礎控除額:4,800万円よりも小さくなるので、相続税はかかりません。このように自宅を相続した場合、「小規模宅地等の特例」を使うと大きな減税となります。他にもアパート経営をしている土地や商売をしている土地にも適用されますので、適用条件を確認した上での活用をお勧めします。
アパート経営を行う土地にかかる固定資産税・都市計画税は、更地・駐車場と比較して、住宅1戸当たり200㎡まで、それぞれ1/6,1/3となり、土地の税金の減税となります。その仕組みを解説します。
固定資産税は、毎年1月1日に固定資産(土地、建物、償却資産)の所有者に対して課される税金です。固定資産の評価額を基に計算された税額を、その固定資産が所在する市町村に納めます。計算式は、
固定資産税 = 固定資産税評価額 × 税率
となります。税率は全国一律ではなく、1.4%~2.1%の範囲で各市町村が条例で設定します。
固定資産税評価額は、土地や建物などの評価方法を定めた「固定資産税評価基準」に基づき、各市町村が個別に決める評価額のことをいいます。
土地の場合、地価公示価格の約70%が固定資産税評価額の目安とされています。
市街地か村落か、面積・形状、道路と土地の接し具合によって評価額が異なります。
建物の場合、新築時は請負工事金額の約50~60%が目安とされています。
建物規模・構造、築年数によって評価額が異なります。
固定資産税評価額は、各市町村にて調査可能です。毎年変わることもありますので確認が必要です。
固定資産税はアパートが建つと、土地の場合1戸当たり200㎡までは固定資産税評価額が更地の場合の6分の1になり、200㎡を超える部分は3分の1になります。
区 分 | 住宅用地特例率 |
---|---|
小規模住宅用地 (戸数×200㎡まで) | 1/6 |
一般住宅用地 | 1/3 |
Δ固定資産税の住宅用地特例率(軽減率)
相続税評価の「小規模宅地等の特例」と固定資産税評価の「小規模住宅用地」と混同しやすいので、注意が必要です。
【事例3】
1,000㎡の土地に4戸のアパートを建てた場合、固定資産税評価額は土地800㎡までが6分の1になります。
200㎡ × 4戸 = 800㎡ : 固定資産税評価額は1/6 : 小規模住宅用地
1,000㎡ - 800㎡ = 200㎡ : 固定資産税評価額は1/3 : 一般住宅用地
都市計画税は、都市計画事業または土地区画整理事業に要する費用にあてることを目的として、市街化区域内の土地、建物の所有者に対して課される税金です。市街化区域外の土地、建物や償却資産には課税されません。計算式は、
都市計画税 = 固定資産税評価額 × 税率
となります。税率は全国一律ではなく、0.3%を上限として各市町村が条例で設定します。
都市計画税の評価額は固定資産税評価額を用います。
都市計画税はアパートが建つと、土地の場合1戸当たり200㎡までは評価額が更地の場合の3分の1になり、200㎡を超える部分は3分の2になります。
区 分 | 住宅用地特例率 |
---|---|
小規模住宅用地 (戸数×200㎡まで) | 1/3 |
一般住宅用地 | 2/3 |
Δ都市計画税の住宅用地特例率(軽減率)
アパート経営における経費を家賃収入から差し引くと、税務上は赤字になることがあります。
サラリーマンの場合、給与所得からアパート経営の不動産所得の赤字分を差し引いたものから所得税が計算されるので減税となります。(「損益通算」)しかしローン返済数年後には「デッドクロス」が待ち構えており、増税となります。先ず不動産所得・給与所得を解説しながら、「損益通算」と「デッドクロス」の仕組みを説明します。
不動産所得は、土地や建物などの貸付により得られる所得です。
家賃などを含めた不動産(アパート経営)総収入から不動産経営に関わる必要経費を差し引いたものです。
不動産所得 = 不動産(アパート経営)総収入 ― 必要経費
この金額が所得税の対象になります。
不動産総収入は、アパート経営の売上です。
家賃、地代、礼金、更新料、共益費、敷金・保証金(返済不要)などが挙げられます。
不動産収入に該当するもの | 不動産収入に該当しないもの |
---|---|
家賃・地代 | ― |
礼金・更新料 | ― |
共益費 | ― |
敷金・保証金(返済不要) | 敷金・保証金(返済用) |
Δ不動産収入に該当するもの・しないもの
必要経費にも該当するもの、しないものがあります。借入金の利息は必要経費になりますが、元金は必要経費になりません。元金の代わりに減価償却費が必要経費として計上出来ます。
経費に該当するもの | 経費に該当しないもの |
---|---|
借入金返済の利息 | 借入金返済の元金 |
固定資産税・都市計画税・事業税 | 所得税・住民材 |
不動産取得税・登録免許税・印紙税 | 自宅関連費(自宅の修繕工事) |
管理費(管理業務委託費) | 生活関連費(プライベート費用) |
日常修繕費(実際に修繕した費用) | 大規模修繕積立費(実際に修繕していない金額) |
水道光熱費(共用部分) | |
損害保険料 | |
減価償却費 | |
広告宣伝費・仲介手数料 | |
資料費、消耗品費、立退料 | |
接待交際費、税理士・司法書士報酬 |
Δ必要経費に該当するもの・しないもの
アパート経営において減価償却費は支出の伴わない経費であり、節税と直結します。アパート経営を検討される方は、確定申告の減価償却費・・・
ローン返済(元利均等方式)初期は、利息の占める割合が高く、元金の占める割合は低くなります。
よって、
元金よりも減価償却費の方が高くなりますので、税務上赤字になる場合が多く、減税に繋がる仕組みとなります。
所得税対策にとって、実際の出費を伴わない減価償却費は非常に重要です。経費として計上可能か? | 実際に出金があるか? | 節税対策になるか? | |
---|---|---|---|
元金 | 不可能 | ある | ならない |
利息 | 可能 | ある | なる |
減価償却費 | 可能 | ない | なる |
Δローン返済と減価償却費の節税対策
ローン返済初期:下記のようになります。
利息 > 元金 、 元金 < 減価償却費 → 税務上、不動産所得が赤字になりやすい
損益通算は、不動産所得が赤字になった際、他の所得(例えば給与所得)から赤字分を差し引くことで、所得合計が少なくなり、所得税・住民税・事業税を減税することができることをいいます。
損益通算は確定申告により、給与などの源泉徴収された所得税の還付を受けることができます。
ローン返済がすすむと、デッドクロスというリスクが待ち構えています。
その対応策も含めて解説します。
ローン返済初期には「減価償却費>元金」となっているため、所得税減税が出来ますが、ローン返済が進むと、「減価償却費<元金」となります。その転換点をデッドクロスといいます。
ローン返済初期 : 減価償却費 > 元金
転換点 デッドクロス
ローン返済が進むと : 減価償却費 < 元金
元金は実際に出金し、必要経費として計上できないため、デッドクロスを通過すると納税額は増えます。また、設備部分の法定耐用年数は15年のため、ローン返済後15年経過すると、減価償却費は下がり、元金の割合が減価償却費と比較して一段と上がるので、さらに納税額が増えます。
金融機関が貸倒れリスクを避けるために、不動産担保融資を残存法定耐用年数以内に収める理由は、減価償却費が無くなると、急激に納税額が増えキャッシュフローが悪化するからです。
デッドクロスは、下記のようなアパートで起こりやすくなります。
・築年数が古いアパート :減価償却期間が短い
・ローン返済比率が高いアパート:元金返済額が大きい
例:フルローン、オーバーローン
デッドクロスへ対応するには、下記のような方法があります。
・自己資金の割合を大きくして購入:ローン返済比率を小さくする
・アパートローンの繰上げ返済 :減価償却期間が残っている間に返済
・新たにアパートを購入 :新たな減価償却費を計上し、総減価償却費を大きくする
・アパートを売却 :ローン返済残額を売却費で賄う
などがあります。
アパート経営開始直後は、損益通算により減税効果がありますが、ローン返済が進むとデッドクロスというリスクが待ち構えていますので、そこまで見通しての税金対策が必要となります。給与所得は、会社員が勤務先の会社から仕事の対価として得られる所得です。
給与所得控除は、会社員などの給与所得者に適用される控除です。
所得税計算の基となる給与所得額を算出する際、1年間の給与収入に応じて差し引かれるものです。
給与所得控除の計算方法は、年度ごとに度々更新されます。国税庁WEBサイトの所得税:速算表での確認が必要です。
給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 |
---|---|
180万円以下 | 収入金額×40% 65万円に満たない場合には65万円 |
180万円超~360万円以下 | 収入金額×30%+18万円 |
360万円超~660万円以下 | 収入金額×20%+54万円 |
660万円超~1,000万円以下 | 収入金額×10%+120万円 |
1,000万円超 | 220万円(上限) |
Δ給与等の収入金額に対する給与所得控除額
また、所得控除は、ある一定の基準を満たす場合に各種所得の総額から控除されるもので、全部で14種類あります。基礎控除、医療費控除、雑損控除、社会保険料控除、寄付金控除、年金保険料控除、地震保険料控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、小規模企業共済掛金控除、障碍者控除、寡婦(寡夫)控除、勤労学生控除です。給与所得控除とは別物です。
会社員の場合、最終的な課税所得は給与収入から給与所得控除と所得控除を差し引いて計算されます。
給与所得者の所得税額は、下記算式で求めます。
所得税 = (給与収入 ― 給与所得控除額 ― 所得控除額) × 税率 - 控除額
税率、控除額は下記「所得税率と控除額」に掲載しています。
損益通算により、所得税・住民税に対してどの程度の効果があるのか、事例を通して計ってみます。
【事例4】
ある会社員の給与収入が700万円、所得控除額が130万円であるとします。この時の所得税、住民税は?
給与所得控除額 = 700万円 × 10% + 120万円 = 190万円
控除税率
所得税 = (700万円―190万円―130万円) × 20% - 42.75万円 = 33.25万円
課税所得 所得税率(課税所得に対する)
住民税 = (700万円―190万円―130万円) × 10% = 38万円
課税所得 住民税率
所得税 + 住民税 = 33.25万円 + 38万円 = 71.25万円
【事例5】
事例4の会社員が、アパート経営(不動産収入:400万円、経費550万円)をしています。この時の所得税、住民税は?
給与所得 = 700万円 - 190万円 = 510万円
不動産所得 = 400万円 - 550万円 = -150万円
課税所得 = 510万円 - 150万円 - 130万円 = 230万円 : 損益通算による
給与所得 不動産所得 所得控除
所得税 = 230万円 × 10% - 9.75万円 = 13.25万円
所得税率(課税所得に対する)
住民税 = 230万円 × 10% = 23万円
住民税率
所得税 + 住民税 = 13.25万円 + 23万円 = 36.25万円
【事例4】と【事例5】を比較して損益通算により、所得税は20万円の減税、住民税は15万円の減税、両方で35万円の減税となりました。確定申告すれが、源泉徴収された所得税・住民税が還付されます。
個人にかかる所得税は、所得が増えるほど税率が高くなる累進課税方式です。一方、法人の所得にかかる税率である法人税率は比例課税方式であり、現時点(令和元年)で23.2%と一律です。つまり、アパート経営を法人化することにより、節税できます。
法人税は、法人の企業活動により得られる所得に対して課税される国税です。個人に課税されるのが所得税で、法人に課税されるのが法人税です。所得(利益)に対して課税される仕組みは所得税も法人税も同じです。
法人税率は、法人の所得に対して一律(23.2%)に課される税率ですが、国の財政、税収の状況、法人誘致による海外諸国との競合により定期的に見直しがあります。特に最近の法人税率は引下げ傾向にあり、現時点(令和元年)で平成で最も低い税率まで引き下がりました。
期末の資本金または出資金 | 所 得 金 額 | 法人税率(2018年度~) |
---|---|---|
1億円以上 | ― | 23.2% |
1億円以下=中小法人 (資本金5億円以上の大法人の 子会社などは除く) | 800万円以上 | 23.2% |
800万円以下 | 15% |
Δ法人の規模別の法人税率(出所:国税庁)
資本金1億円以下の中小法人の場合、課税所得800万円以下の部分に対しては、法人税率は15%になります。
個人の場合の所得税率と控除額は下記の通りです。
課税所得金額 | 税 率 | 控 除 額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円以上~330万円以下 | 10% | 9.75万円 |
330万円以上~695万円以下 | 20% | 42.75万円 |
695万円以上~900万円以下 | 23% | 63.60万円 |
900万円以上~1,800万円以下 | 33% | 153.60万円 |
1,800万円以上~4,000万円以下 | 40% | 279.60万円 |
4,000万円以上 | 45% | 479.60万円 |
Δ課税所得金額に対する所得税率・控除額(出所:国税庁)
課税所得がいくらの時に法人化すると節税のメリットがあるのかをシミュレーションしてみます。
【事例6】
アパート経営の所得金額が700万円、800万円、900万円、1,000万円の場合のそれぞれの法人税(法人経営)、所得税(個人経営)はいくらになるか?を計算します。
1.700万円の場合
法人税 = 700万円 × 15% = 105万円
所得税 = 700万円 × 23% - 63.60万円 = 97.4万円
法人税 > 所得税
2.800万円の場合
法人税 = 800万円 × 15% = 120万円
所得税 = 800万円 × 23% - 63.60万円 = 120.4万円
法人税 ≦ 所得税
3.900万円の場合
法人税 = 800万円 × 15% + 100万円 × 23.2% = 143.2万円
所得税 = 900万円 × 23% - 63.60万円 = 143.4万円
法人税 ≦ 所得税
4.1,000万円の場合
法人税 = 800万円 × 15% + 200万円 × 23.2% = 166.4万円
所得税 = 1,000万円 × 33% - 153.60万円 = 176.4万円
法人税 < 所得税
この結果より、課税所得が800万円を下回ると所得税の方が安く、課税所得が800万円を上回ると法人税が安くなることがわかります。よって、アパート経営を実施・予定の方は、課税所得が800万円を越える時点で、法人化すると節税になることがわかります。
税金が安くなること以外にも法人化によるメリットは数多くあります。
メリット | 内容 |
---|---|
税金が減少 | 課税所得が800万円を境として税金が安くなる。アパート経営の規模拡大を図るのであれば、法人化する方が有利。 |
所得を分散 | 役員や社員への給与を経費として計上できる。 |
給与所得控除・所得控除が可能 | 法人化して社長自身に給与を支払うことで、給与所得控除分と所得控除分の課税所得を差し引くことができる。 |
損益通算年数が9年 | 所得が赤字になった場合、繰り越すことができ、翌年以降の所得や利益と相殺が可能。個人の場合は3年間だが、法人の場合は9年間も赤字分を繰越控除できる。 |
生命保険を全額経費 | 個人の生命保険控除は高額な保険料を支払っていても、年間最大12万円の控除にしかならないが、法人の場合は制限がない。 |
退職金を経費計上 | 個人の場合、退職金を経費計上できないが、法人の場合には退職金を経費計上できる。 |
減価償却費の計上が自由 | 個人の場合、減価償却費は毎年一定の金額が強制的に経費計上されるが、法人の場合には都合のいい時に好きなだけ経費計上できる。 |
設立費用(登記費用・司法書士報酬)や法人税申告費用(税理士報酬)がかかり、
赤字決済でも納税が必要になるデメリットがあります。
デメリット | 内容 |
---|---|
設立費用が必要 | 法人設立にあたり、登記費用・司法書士報酬が約25万円~30万円必要になります。また、法人税申告などの税理士報酬が必要になります。アパート経営を個人で開始してから法人化する際には、個人から法人への移転費用として不動産取得税・登記費用が必要になります。 |
赤字決済でも法人住民税を納税 | 法人の場合、赤字決済でも年間7.2万円の法人住民税の納税が必要です。内訳は法人市民税が5万円、法人都道府県民税が2.2万円の均等割という税金です。 |
不動産投資が活況ですが初めて不動産投資をする方が「法人にしようか?どうしようか?」という疑問を多く聞かれます。実際にアパート経営をしている・・・
以上、アパート経営における税金対策として、相続税、固定資産税、所得税と法人化を見てきました。アパート経営の諸条件により、税金対策の利用可能性の有無が生じます。税金対策の概要を理解していれば、これからのアパート投資活動にとって大きな判断材料となります。税金対策を上手に活用してのアパート経営をお勧めします。
出所
※1 「No.4155 相続税の税率」 国税庁
※2 「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」国税庁
※3 「No.1410 給与所得控除」 国税庁
※4 「No.5759 法人税の税率」 国税庁